超高密度織物技術

昔の織物の『常識』を最新の『常識』に更新!

超高密度織物技術とは

織物を織るとき、糸の張力と糸同士の擦れで糸は切れます。高密度織物に糸密度の限界があるのはそのためです。限界を超えると糸の擦れと糸切れで品質が地に落ち、織物にならなくなるのです。
超高密度織物技術は、糸への負荷をビックリするほど小さくできます。糸の擦れと糸切れが少ないので、糸密度の限界を超えて織物を織れるんです。
「品質問題解決したい!」「真似できないものを作りたい!」皆さんのお役に立てるかもしれません。

こんな品質問題を解決しています。

  • 毛羽を少なくしたい
  • 織物の歪みを無くしたい

こんなモノづくりや、試みが成されています。

  • 2mを超える巾の高密度織物
  • 低伸度の糸を用いた高密度織物
  • 製織と同時にダウンプルーフ機能が得られる(糸と糸の隙間を埋める加工を必要とせず、より自然な風合いを活かしたモノづくり)
  • スギ花粉より小さい空孔
  • 撥水機能の向上

開発に至るまで

織物の『常識』って何だろう?

リーマンショックって知ってます?大不況。当社の仕事量はそのとき1/3になりました。私の学生時代と同じくらい暇でしたね。せっかくなのでその暇を利用して、今まで答えが出てなかったものをトコトン追いかけてみました。

「この機械部品はなぜこんな形なの?」「常識だから…」
「その常識はどこから?」「さぁ…?」
「織物の『常識』って何だろう?」

織物の常識を調べるため文献を探しました。でも、10年、20年遡ってもありません。くじけずやってると、ナント100年くらい遡った辺りで出てきたんです…。

東京と京都の国立国会図書館へ

行ってきました国立国会図書館。文献には【帝国】とハンコが押してありました。「おお!」…。歴史を感じましたね。当時、頭のいい人が、先端技術としてこれを研究しまとめてくれていたと思うと、浪漫ですよね。ですが変な日本語で読みづらかったです…。
得たものは大きかったのですが、欲しい情報には出会えませんでした。

織物の『常識』は昔の『常識』だった・・・・。

その話を大師匠に話したんです。すると数日後…。
「元彦君、これ読んでごらん…。」
「ええ?何これ、手書き…?忍法帖?」
出てきました超ふる―いふる―い技術書。「○○紡織技術書」みたいなやつ。
遠くまで探しに行きましたが、最後は自分に一番近いところに答えがありました。まるで映画みたい…。技術書を開いてみると…。
ありました探していたもの!
結局、織物の『常識』は当時の織機と機械材料をベースに作られていました。あたりまえですよね。でもあたりまえの答えこそ納得できます。

最新の『常識』にアップデート

そこまで分かるともうこっちのものです。現在の機械材料は格段に進歩しています。それにあわせて常識を書き換えれば出来上がり!常識は更新が可能だったのです。
こうして織物の『常識』は更新され、生み出されたのが超高密度織物でした。

超高密度織物って何?

糸と糸の隙間を極限まで小さくした織物

早速、アップデートした『常識』を使い実験してみました。
計算上、糸と糸の隙間はもっと小さくできそうだったので、やってみました。極限まで隙間を小さくして織物を作ってみたら、今までの糸密度を20%超える織物になりました。
教科書には「平織りは緻密にすることができない」と書いてあります。これも書き換えてもらわなきゃいけないですね。

平織りは、綿糸40番手を用いた場合、2.5cm四方に、タテ糸ヨコ糸合わせて230本入れるのが一般的な限界です。私たちは280本入れることができました。
あまりに糸が詰まりすぎて染色できないといわれ、笑っちゃいましたが、この平織りがどれほど緻密なのか?大阪府立産業技術総合研究所さんで測定(細孔径分布)させてもらいました。

スギ花粉(30~40μm)のような微粒子も通さない隙間

さて、「糸と糸の隙間は、どれくらいでしょうか?」を測定したのが、上のグラフです。
横軸:糸と糸の隙間の寸法
縦軸:隙間の数
と思ってください。「だいたい1~4μmの隙間だよ」という結果でした。
ダニ(約300μm)は当然ですが、なんとスギ花粉(30~40μm)のような微粒子もこの織物を通過できないとのこと。ちなみに織物を構成する綿糸(40番手)の直径は約150μmです。

ダウンプルーフ機能(高い気密性)

また、気密性の測定(JIS L 1096 A法)結果は1.1㎤/㎠・s。この結果、織物は織られると同時にダウンプルーフ機能(高い気密性)を持つことがわかりました。この織物はダウンジャケットの生地に適し、
①特別な加工をせずともダウンジャケットの生地に使える
②これまでのダウンジャケットのように羽が出てきて困ることがない
という特徴があります。

超高密度織物って何に使われているの?

素材の良さを存分に活かしたもの

特別な加工を必要としないで気密性の高い織物になるということは、素材の良さを存分に活かしたモノづくりが可能になるということです。染色加工ができるようにアレンジした織物は、例えばシャカシャカしない綿のダウンジャケットや、メチャクチャ防風性の良いコートになっています。

織ることが難しい糸(伸度がない糸)

ほかにも、一般的には織ることが難しい糸(伸度がない糸)も、この製織技術を使えば簡単に織ることができます。よく目にする某アウトドアブランドのあのバックも、この技術が使われています。

幅が広く歪みがちな織物も平らに

また、この技術は織物の内部応力を緩和するので、織物の平坦性が増すという効果があります。幅が広くゆがみやすい織物が平らに仕上がるので、当社しか作れない広い織物が業界で活躍しています。

超高密度織物の見えない工夫

タテ・ヨコ糸の交錯によってできた微細な突起を等間隔に

すべての織物の表面には、タテ・ヨコ糸の交錯によってできた微細な突起が規則的に並んでいます。先ほど紹介した、超高密度織物(綿糸40番手の280本)は、その突起にも工夫を凝らしました。隣り合う突起の距離を等間隔にしています。

一つの突起は6個の突起に囲まれています。その6個の突起を直線で結ぶと正六角形になるよう、ついでに突起の凸凹が最大になるように出来ています。なぜかって?きれいだろうだから…。そこまで細かすぎて見えませんけど…。染色加工できなくて残念だったし…。

撥水加工を行うと機能が1~2段階UP

でも、その突起も高密度化されていることで、うれしいこともあるんです。
撥水加工を行うと、その機能は今までより1~2段階upするという効果が確認されています。
環境負荷が低く、綿との相性がいい撥水材があれば、一緒に使ってみたいですね。そうすると、キレッキレの防風性と撥水性があり、しかも蒸れない綿のコート…ヨーロッパで好かれそうかな…。しかも微視的にみると正六角形の突起…見えないけど。染色工程でどうしてもシワになるので、その辺を突破できるアレンジが必要ですが…。

超高密度織物を作る織機

文献にあったパーツを、現在の機械材料を用いて再設計

お見せできないのが残念です。でも少しだけ…。
例えば織機は力の方向と締結ボルトの軸方向が垂直になるようにし、ヨコ糸をオサで打ち込むパワーが振動になって逃げないようにしてあります。
話は逸れますが、「こんな織物を作りたいから、この構造の織機が必要だ」といえる織屋さんでないといけません。織機は、高速化・広幅化・省エネ化・省人化の方向、つまり織物が安くなる方向に進歩しています。ですから、よーく織機のスペックを知って織機を選ばなければ、チープな織物しか作れなくなるかもしれません。織機メーカーは機械のプロですが、織物のことは残念ながら素人です。そこを理解して織機メーカーとお話しできることが大切です。話を元に戻します。

ヨコ糸を高密度に押し込む方法を書きますね。図は織物をヨコ糸の軸方向から見た断面図です。ヨコ糸が上下タテ糸の間にあります。高密度織りにするには、①下糸をガッチリ張り②上糸をゆるめてヨコ糸を挿入、③押し込みながら上下タテ糸を絞り込むのが基本です。タテ糸数が途方もなく多いのが超高密度織物です。普通にやると下糸の張り、上糸のゆるみは均一になってくれず、高密度の基本動作はできません。

そこで超高密度織機には、文献で見つけたパーツをリニューアルして搭載しています。これはタテ糸の張力を高精度で均一にするので、途方もないタテ糸数でも、高密度織りの基本動作が成りたち、織物にすることができます。この秘密兵器によって、糸密度の限界を20%超える超高密度織物ができるのです。「古代遺跡がオンリーワンのモノづくりを可能に!」…って感じでカッコいいでしょ!

この技術の可能性

付加価値を創っていく技術

このパーツは、扱うのが難しい糸についても張力を均一にして織ることができます。高強力・低伸度の糸を使った織物や、幅が広く歪みがちな織物などヘッチャラで生産できるのは、このパーツがあるからです。
先ほど織機の進歩の方向について触れました。織機の進歩を、水平(右)方向とするなら、この技術は垂直(上)方向です。付加価値を創っていく技術と考えています。その創造性を伸ばしていくことが日本の繊維産業の未来であり、当社の未来だと考えます。